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TOP >  コラム >  税務調査 >  税務調査の備え方。領収書のない経費は否認されるのか?

税務調査の備え方。領収書のない経費は否認されるのか?


「領収書が見つからない…これって全部“ダメ”になりますか?」

答えはいいえです。


ポイントは、事前準備と代替証拠の積み上げです。


本記事は、個人・法人を問わず、税務調査の前後14日をどう動くか、領収書がない支出をどう守るかを、実務視点でわかりやすく整理しました。


税務調査に向けた「準備の全体像」


税務調査の多くは事前通知のうえで実施されます。


通知後に慌てないために、14日前(2週間前)から当日までの道筋を決め、証拠の置き場所と見せ方を整えることが、もっとも効率的で安全です。


以下のタイムラインとフォルダ設計を土台に、担当の役割を固定して進めましょう。


14日前〜当日までのスケジュール(ToDoタイムライン)

時期 やること ねらい
14〜10日前 総勘定元帳・補助元帳のエクスポート、対象年度の主要科目(売上・仕入・経費)を抽出する 調査の土台となるデータを最初に固め、後工程の突合を楽にするための準備です
9〜6日前 通帳・ネット銀行明細・クレジットカード明細と突合。領収書欠落リストを作り、取引先に請求書の再発行を依頼する 領収書がない支出を“代替証拠で救う”ため、第三者痕跡の収集を先行させる狙いがあります
5〜3日前 契約書/見積→発注→納品→検収の連鎖を回収。メールやチャットも検索で抽出し、PDFに束ねる 取引の実在性と事業関連性を時系列で説明しやすくするための準備です
2〜1日前 フォルダ目次と提出リスト(紙/電子)を作成。質問窓口を一本化し、回答の役割分担を合意する やり取りのブレや言い間違いで誤解が生まれるのを避けるための仕組み化です
当日 会議室・電源・Wi-Fiの準備、議事録担当を確定。未提出“宿題”を双方でリスト化する 調査当日の混乱を防ぎ、後日の“言った言わない”を回避する狙いがあります
翌日〜 宿題一式をパッケージ提出、版管理(差し替え防止)を明記する 追加依頼の反復を減らし、調査の早期収束につなげるための対応です

※多くの実地調査は原則として事前通知があります(適用除外の例外あり)。

日程変更が必要な場合は、合理的な理由の範囲で協議が可能です。


フォルダ設計(税目×年度×取引類型×証拠強度)

税務調査に備えたフォルダ設計は「どこに何を置くか」を明確にすることで、調査当日の提示がスムーズになります。

以下の表は、基本的な設計例です。


階層 フォルダ例 内容・役割 ポイント
第1階層 税務調査_会社名 会社全体の調査対応フォルダ 最上位に「税務調査」と付け、他案件と混ざらないようにする
第2階層 法人税 / 消費税 / 源泉所得税 / 横断 税目ごとに分ける 法人税と消費税を分けると、対象税目ごとの検索が容易になる
第3階層 年度(例:2023, 2024) 調査対象年度別 年度ごとに区切ることで「何年分か」をすぐ把握できる
第4階層 取引類型(売上/仕入/経費/外注費/通帳/カード明細/契約書 等) 論点ごとに証拠を格納 領収書がなくても関連資料をまとめやすい
補助フォルダ 適格請求書対照表 / 欠落リスト / 代替証拠パック 消費税や領収書欠落の管理 消費税は特に「適格番号管理表」が必須
インデックス index_YYYY.xlsx 提出リスト兼フォルダ目次 ID・相手先・金額・税区分・証拠強度などを管理

ファイル命名ルール


項目 命名例 解説
基本形 YYYYMMDD_取引先_金額_案件_税区分_証拠強度★_v1 すべての要素をファイル名に埋め込む
20240430_コバシ工業_132000_展示会ブース_課税10%_★★★_v1.pdf 日付・相手先・金額・案件名・税区分・証拠強度を一目で把握
証拠強度 ★★★/★★☆/★☆☆ 「強い」ほど調査で通りやすい証拠の組合せ(例:請求書+通帳=★★★)
版管理 v1, v2, v3… 差し替え時に必ず番号を進め、旧版は削除せず残す

インデックス表(index_YYYY.xlsx)の推奨列


列名 入力例 意味
ID2024-KE-001年度+取引種別で通番
税目法人税税目区分
年度2024会計年度
取引類型経費売上/仕入/経費 等
取引日2024/04/30実際の日付
相手先コバシ工業正式名称で統一
金額132,000税込 or 税抜は別列で管理
税区分課税10%消費税の判定に使用
案件/用途展示会ブース設営事業関連性を明記
証拠強度★★★ファイル命名と連動
ファイルパス/法人税/2024/経費/...pdfクリックで開けるように設定
代替証拠構成請求書+通帳+メールどんな組合せかを簡潔に
ステータス提出済/宿題/差替中やり取りの進捗を管理
備考金額内訳や注意事項補足情報

当日の動線・役割分担(代表/経理/税理士)

・代表:事業の概要・方針・組織体制など“全体像”の説明に専念し、個別数値は担当へ橋渡しする。(トップが細目に踏み込み過ぎると、現場との回答差異が生じやすく混乱の原因になります)


・経理:資料の所在と突合ルール(通帳→伝票→請求書→納品)の説明に集中する。(出し戻しの記録を残し、原本の保全と差し替え防止を徹底しましょう)


・税理士:窓口一本化と議事の整理、結論が出ない論点の持ち帰り管理を担う。(推測回答は避け、後刻回答として期限と形式を合意しましょう)


領収書がない=即否認ではない|代替証拠の考え方


領収書を失くしても、ただちに経費が全滅というわけではありません。


税務調査で重要なのは、①取引が実在したか、②支出が事業関連か、③金額が合理的か、の3点を客観資料で説明できるかです。

とくに消費税の仕入税額控除は保存要件が厳格ですので、請求書等の欠落は控除否認リスクが高まります。


証拠の3要素(①取引の実在 ②事業関連性 ③金額の合理性)

・実在:通帳・カード・ネット銀行の第三者痕跡、メール・チャットの送受信履歴、納品・検収の記録など(人の記憶ではなく外部の客観データで裏づけられているかが要点になります)


・事業関連性:契約書・発注書・業務日報・社内の稟議や経費規程、案件名とのひも付けなど(私費混入を避けるルールが事前に運用されているかが信頼形成に直結します)


・金額の合理性:見積–発注–納品–検収–支払いの因果の流れ、単価×数量×期間、同種相場との整合(“だいたいこのくらい”では弱く、算式で説明できることが望ましいです)


代替資料の強さマップ(保存版)

強さ 代替資料 使いどころ・注意点
★★★ 請求書(適格)+通帳/カード明細 取引日・金額一致で実在+金額を同時に立証。インボイス番号で消費税控除の要件も満たしやすいです。
★★☆ 契約書+見積→発注→納品→検収 一連の流れで実在+事業関連性を立証。期ズレや数量差は注記を添えると理解が進みます。
★★☆ メール/チャット(発注・納品連絡) 送受信日時・相手・内容が客観的。件名・本文に案件名を入れておくと検索性が高まります。
★☆☆ 出金伝票+相手先確認(名刺/サイト/地図) 現金支出の補強として最低限有効。単独では弱いので他資料と必ず組み合わせましょう。
口頭説明のみ 原則不可。議事メモに落とし、必ず第三者痕跡で裏づけしてください。

「領収書だけが絶対条件」ではない一方、消費税は保存要件が明文です。


インボイス制度下では、適格請求書の保存と帳簿記載が整っていないと、仕入税額控除が否認されうるため、上表の★★★のセットを最優先で整えましょう。


カード明細・通帳・契約書・メール・納品物・出金伝票の使い分け

・カード、通帳:第三者痕跡の中核。金額・日付・相手先を主台帳と突合し、用途メモで案件名まで紐づけます。

・契約書:事業関連性の根拠。条項の範囲と実態がズレると弱くなるので、納品書・検収書で補強しましょう。

・メール、チャット:時系列の接着剤。検索ワード(案件名・金額・発注番号)を事前ルール化しておくと有効です。

・納品物(写真/URL/成果物):実在の最後尾。IT・クリエイティブでは、アクセスログやGitの履歴も役立ちます。

・出金伝票:現金経費の救済策。相手先の連絡先・位置情報など客観要素を必ず添付してください。


ケース別|領収書がないときの対応


状況に応じて優先順位を決め、短時間で証拠を束ねるのがコツです。以下は想定頻度の高い4パターンの実務手順です。


全部ない場合と一部ない、電子のみ、ネット銀行のみのときの対応

・全部ない:請求書の再発行を最優先。不可なら、見積→発注→納品→検収の連鎖+通帳/カード明細で代替します。そのうえで、メール/チャットのやり取りを抽出し、1案件1PDFに束ねると説明が通りやすくなります。


・一部ない:欠落分だけ「代替証拠パック」を作成。ファイル名は「YYYYMMDD_取引先_金額_案件」で統一します。


・電子のみ:PDFや画像の改ざん防止のために版管理を記録し、同一ファイルの差し替えは避ける運用にします。


・ネット銀行のみ:CSVを出力し、取引先マスターで支払種別・案件名を追記。摘要欄の俗称は備考で正規名に置換します。


現金経費の補強

現金は痕跡が弱いため、出金伝票+相手先確認(名刺/URL/地図)+社内規程の3点セットで事業関連性を担保します。


再発行が見込める店舗は早期に依頼し、再発行不可の回答メールも証拠として保存しましょう(“依頼したが困難だった”の記録が評価されます)。


インボイス(適格請求書)・消費税の要件注意

仕入税額控除は帳簿+(適格)請求書等の保存が要件です。


番号の欠落や区分経理の不備は、控除否認の主要因となり得ます。


毎月、適格番号対照表で受領請求書のチェックをし、欠落があれば速やかに相手先へ訂正依頼をかけましょう。


提出と「持ち帰り」への備え


提出は原本保全と差し替え防止が最優先です。


さらに、調査官が資料を“持ち帰る”期間のコミュニケーション設計が、調査の長期化を防ぐ最短ルートになります。


紙・電子データの提出ルール

・紙:原本はクリアファイル+インデックスで管理し、コピー(写し)を提出。原本の出し戻しは記録簿に残します。


・電子:フォルダ目次(index.xlsx)を置き、バージョンと作成日を明示。任意でハッシュ値を記録すると信頼が増します。


・共通:提出リストを双方で確認し、“宿題一覧”に期限・形式(紙/電子)を明記して合意しましょう。


持ち帰り期間中の問い合わせ・追加依頼への返し方

・電話、口頭は要点メモを当日中に作成し、税理士から文面で再確認します(誤解や要件のブレを防ぐため)。


・追加依頼はまとめてパッケージ提出し、再提出の条件(この資料が揃えば足りるのか)を明確化しておきます。


・期日が厳しい場合は、部分提出+残部の提出計画を先に合意し、無用な催促を回避します。


当日の台本&NG対応


台本があると、場当たり対応や推測回答を避けられます。


以下のフレーズは、そのまま使える形で用意しました。


最初の挨拶〜ヒアリング〜資料提示の台本

・挨拶:「本日の窓口は○○税理士です。事実関係の一次回答は私が行います。必要資料は一覧に沿ってご提示します。」


・概要説明:「対象年度の事業概要、売上構成、原価・外注、主要経費、消費税の区分経理について順にご説明します。」


・提示順序:「売上→仕入→経費→通帳/カード→契約→適格請求書対照表→代替証拠パックの順にご確認ください。」


・不明点対応:「事実確認が必要な点は後刻回答とし、期限と形式をここで合意させてください。」


・クロージング:「本日の未提出・宿題を相互確認し、提出期日と方法(紙/電子)を記載したメモを共有します。」


やってはいけない行為(改ざん/推測回答/口頭のみ 等)

改ざん、破棄、隠匿:事前通知後の不自然な書類作成や改変は、重大な評価低下につながります。


推測回答:断定できない事項は後刻回答へ。場の空気で“たぶん”と言ってしまうのが最も危険です。


口頭のみ:説明は文書化し、第三者痕跡で裏づけて初めて力を持ちます。


まとめ


領収書がない支出は、一律否認ではありません。


実在・関連・金額の3点を代替証拠で積み上げ、T-14日から当日までの設計図どおりに動けば、調査は落ち着いて乗り切れます。


消費税は特に適格請求書の保存がカギ


月次で点検し、欠落があれば即訂正——この習慣が、調査の強さをつくります。